こんにちは、
ともやんです。
2018年は最後の巨匠と言われた朝比奈隆の生誕110周年です。
なにかイベントが行われるのかどうか知りませんが、朝比奈さんのコンサートに通っていた頃からもう30年も経つんだ、と懐かしく思う次第です。
また当時30才の僕も昨年還暦となりました。
時間の経つのは早いですね。
さて、朝比奈さんの生誕110年の今年は、同い年のカラヤンと共に積極的に聴くようにしています。
朝比奈隆 新日本フィルハーモニー交響楽団他 ベートーヴェン交響曲全集
そして今回取り上げるのは、88年から89年に新日本フィルハーモニーと行った、ベートーヴェンの交響曲ツィクルスです。
改めて聴いて、朝比奈氏を偲びたいと思います。
朝比奈隆のベートーヴェン交響曲第9番 1988年12月15日
交響曲第9番ニ短調作品125“合唱”
交響曲第9番ニ短調作品125“合唱”
Ⅰ(18:31)Allegro
Ⅱ(15:12)molto vivace
Ⅲ(19:48)Adagio-Allegretto-Adagio
Ⅳ(26:08)Presto-Allegro
録音1988年12月15日 サントリーホールでのライブ録音
朝比奈隆指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団
豊田喜代美(S)、秋葉京子(MS)、林誠(T)、高橋啓三(Bs)
晋友会合唱団 関屋晋(合唱指揮)
ライヴ録音:1988年12月15日 サントリーホール
朝比奈隆は、1908年7月9日生まれなので、このコンサートの時が、満80歳。
約3ヶ月早く生まれたカラヤンと共に、第2次世界大戦という大変な時期を乗り越えてこられた方でした。残念ながらカラヤンは、この朝比奈隆のツィクルスが終わるのを待つかのように89年7月に81才の生涯を閉じています。
カラヤンはヒトラー政権下で、しかもフルトヴェングラーの圧力の前で、しばらく辛酸をなめていた時期があり、ヒトラー政権崩壊直前に命からがらイタリアに逃れています。
一方、朝比奈隆は、ハルビンにいて、日本が敗北後は、同じく苦難の末帰国しています。
そんな経験をしてきた二人の芸術に、信ずるものをとことん究める的な覚悟を感じるのは私だけでしょうか。
さて、この第九を皮切りに翌89年5月まで行われた新日本フィルとのベートーヴェン・ツィクルスは、数多いベートーヴェンの交響曲全集の録音の中でも、特異な輝きを発している全集だと思います。
まるで大洋を悠々と泳ぐシロナガスクジラを思わせるような、雄大で何ものも近づけないような威厳に溢れています。
全体的にテンポは遅く、しかも全く弛緩することなく、内声部が充実していて、厚みのあるハーモニーが響きます。この全集を聴くと他の指揮者の演奏が小賢しく感じるくらいです。
コンサートの行われた’88年12月15日は師走ということもあり繁華街は大いに賑わっていたことでしょう。しかも当時はバブル経済の頃。
コンサートの行われたサントリーホール近くの六本木で働いていた私は、仲間たちと忘年会でもしていたかもしれません。
演奏については、宇野功芳氏が簡潔にコメントしていますの引用いたします。
“朝比奈の表現は例によってベートーヴェンの楽譜を信じ、よけいなことを考えずに堂々と鳴らしたもので、まことに立派だ。各パートを目いっぱい、しっかり弾かせるところから生じる強靭な骨組がすばらしく、その恰幅のよさと威厳は現今随一といえよう。”
僕は第1楽章が好きで音の巨大な建築物を見る思いです。
第3楽章の遅いテンポながらも情に流されない意志の強さを感じさせる演奏も素晴らしい。
そして終楽章の壮麗な盛り上がりは最高です!
朝比奈隆 ベートーヴェン交響曲第1番と第3番英雄 1989年2月5日
交響曲第1番ハ長調作品21
ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
交響曲第1番ハ長調作品21
Ⅰ(08:11)Adagio molto-Allegro con brio
Ⅱ(05:57)Andante cantabile con moto
Ⅲ(03:25)Menuetto.Allegro molto e vivace
Ⅳ(05:55)Finale.Adagio-Allegro molto e vivace
交響曲第3番変ホ長調作品55“英雄”
交響曲第3番変ホ長調作品55“英雄”
Ⅰ(21:09)Allegro
Ⅱ(18:10)Adagio
Ⅲ(06:50)Allegro
Ⅳ(13:28)Allegro-Andante-Presto
朝比奈隆指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団
ライヴ録音:1989年2月5日 サントリーホール
朝比奈隆が、何かのインタヴューでベートーヴェンの第1交響曲を虎の脚、と表現していた記憶があります。つまり、虎全体を見なくてもその脚の一部を見ただけでその大きく逞しい姿を想像できるというものです。
だからベートーヴェンの第1交響曲は、虎の脚のようにベートーヴェンの全交響曲を彷彿させるもので、しかもそのように演奏するものだ、ということだと思います。
その言葉通り、朝比奈の第1番は、ベートーヴェンの英雄以降の曲と同じように内声部が充実して肉厚な演奏を聴かせてくれます。それをスマートではないと感じる人もいるかもしれませんが、不愛想だが頼もしく逞しい男性を思わせます。
そんなスタイルの集大成が、第3番”エロイカ”です。約60分の演奏時間を有するテンポ設定も凄いですが、仰ぎ見る壮麗な山脈という感じです。
朝比奈隆 ベートーヴェン交響曲第2番と第7番 1989年3月11日
交響曲第2番ニ長調作品36
交響曲第2番ニ長調作品36
Ⅰ(13:31)Adagio-Allegro
Ⅱ(11:55)Larghetto
Ⅲ(03:56)Allegro
Ⅳ(06:22)Allegro
交響曲第7番イ長調作品92
交響曲第7番イ長調作品92
Ⅰ(15:01)Poco sostenute-vivace
Ⅱ(08:41)Allegretto
Ⅲ(10:48)Presto
Ⅳ(08:33)Allegro
朝比奈隆指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団
ライヴ録音:1989年3月11日 サントリーホール
この日の演奏は、テンポ設定が、前2回に比べて速めで、清澄で爽快な演奏を聴かせてくれます。もちろんの内声部をしっかり弾かせ存分にオーケストラを鳴らした迫力満点のスタイルは同じです。
それに加え、第2番の持つ若々しさと第7番の持つ躍動感の曲想からか、もっさり感がなくすっきりと清々しい表現が気持ちのいい演奏です。
朝比奈隆 ベートーヴェン交響曲第4番と第6番田園 1989年4月6日
交響曲第4番変ロ長調作品60
交響曲第4番変ロ長調作品60
Ⅰ(13:58)Adagio-Allegro
Ⅱ(11:58)Adagio
Ⅲ(06:40)Allegro vivace
Ⅳ(08:27)Allegro
交響曲第6番ヘ長調作品68“田園”
交響曲第6番ヘ長調作品68“田園”
Ⅰ(13:56)Allegro ma non troppo
Ⅱ(14:17)Andante molto mosso
Ⅲ(06:06)Allegro
Ⅳ(04:12)Allegro
Ⅴ(11:04)Allegretto
朝比奈隆指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団
ライヴ録音:1989年4月6日 サントリーホール
この日のプログラムは、第4番と第6番田園。
この日のコンサートに足を運んだ人はどんな演奏を想像しただろうか?
田園はもしかして想像通りだったかもしれない。
荘重で格調高い演奏で、堪能できたことと思います。
問題は、第4番です。
普通に思われている第4番の演奏とかけ離れているからです。
第4番というとフルトヴェングラーとベルリンフィルとの悪魔的な凄演がありますし、クレンペラーとバイエルン放送響との超スローテンポなのに結晶しきった名演もありますが、それらに匹敵する、巨大にして圧倒される演奏です。
序奏部から主部に入るときの爆発力は、サントリーホールで聴いていた人たちは、目の前の人は誰!?、雄叫びをあげるキングコングを目の前にしたほど圧倒されたとことと思います。
朝比奈隆のインタビューの中で、海外に客演するとよく第4番をやらされたそうです。
その理由はよくわかりませんが、常任が美味しい曲をやるので、客演には地味な曲をやらせようという考えがあったのかもしれません。
そこで反骨の朝比奈氏は、じゃ、やってやろうじゃないか、とばかりに第4番が得意になったとかという話を聞いた記憶があります。
何?第4番?そんな甘っちょい曲じゃないぜ。俺が凄いの聴かせていやるぜ!
とばかりに巨大にして圧倒的な演奏を聴かせてくれました。
痛快、爽快、快感!
朝比奈隆 ベートーヴェン交響曲第8番と第5番 1989年5月15日
交響曲第8番ヘ長調作品93
交響曲第8番ヘ長調作品93
Ⅰ(10:09)Allegro vivace e con brio
Ⅱ(04:00)Allegretto scherzando
Ⅲ(05:12)Tempo di menuetto
Ⅳ(08:07)Allegro vivace
交響曲第5番ハ短調作品67
交響曲第5番ハ短調作品67
Ⅰ(09:02)Allegro
Ⅱ(10:33)Andante
Ⅲ(06:07)Allegro
Ⅳ(11:53)Allegro-Presto
朝比奈隆指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団
ライヴ録音:1989年5月15日 サントリーホール
ツィクルス最後を飾るプログラム。
第8番の入りが粋なんだよね。
朝比奈氏は、関西中心に活躍してきた人だけど、出身は東京。
なんか江戸の粋さを思わせる出だしです。
何が粋かって?
出だしが、ティンパニーが気持ち早く出るだんよね。
そしてオーケストラがオフビート気味出てくるんです。
これが堪らなくて、この部分だけCDで何度も聴いたりしています。
そう言えば、クレンペラー&フィルハーモニア管との’59年のスタジオ録音のベートーヴェンのエロイカでも、ティンパニーをオフビート気味に打たせている演奏があって、僕はそんなことでワクワクしてしまいました。
全体的には格調高くホッとさせてくれる演奏です。
さて、トリが第5番。
演奏自体は悪くないし、特に不満もないのだけど、朝比奈隆の”運命”としてもっともっと凄い演奏が出来たのでは、と思います。
例えば、第九の第1楽章のように。
すみません、贅沢な不満でした。
でも終楽章の盛り上がりはその鬱憤を晴らしてくれます。
曲が終わってからの観客からの万雷の拍手とブラボーの嵐が、演奏の素晴らしを物語っています。
まとめ
朝比奈隆さんが亡くなって、18年目。早いものです。
僕が何度かコンサートに行ったのは80年代ですからもう30年ほど前の話です。
僕が聴いたベストは、読売日響を指揮したベートーヴェンのエロイカでした。
一緒に行った友人が、読売日響がこんな迫力ある演奏をするのを初めて聴いた、と驚いていました。
それ以外では、ブルックナーも聴きましたが、聴き手の僕が未熟だったのか、朝比奈隆と言えば、ベートーヴェンでした。
いまも変わりませんが。
朝比奈さんと言えば、人格者というイメージですが、音楽プロデューサーの中野雄氏がその著書の中で、コンサート後、サインをもらって握手をして、朝比奈氏から「ありがとう」と言われた瞬間に、大の男がその場で泣きたくなるほど感動したと告白しています。
そのコメントだけで、朝比奈さんの人間的な大きさと温かさがわかります。
生誕110周年、もっともっと朝比奈さん聴いていこうと思います。
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