「第九」を初期に録音した指揮者のなかで、
もっとも知られ、しかも現代に聴いても、十分通じるというか、
全く違和感がなく、そのレコードの評価が高いのでが、
ワインガルトナー指揮ウィーンフィルの1935年の録音です。
1935年2月2日から4日に掛けて録音されたもので、
80年以上前の録音ですが、十分鑑賞に堪えられますし、
現在もいくつかのレーベルからCDが出ています。
しかもワインガルトナーは、レコード史上初めて
ベートーヴェンの全交響曲を録音しています。
これも聴きものでこれから楽しみが増えました。
ワインガルトナー 現代の第九コンサートの運営方法を確立
ワインガルトナーは、1863年に現在のクロアチア、
当時はオーストリア=ハンガリー帝国領だったザーラで
オーストリア貴族の家系に生まれました。
1860年生まれのグスタフ・マーラーと同世代ですが、
1942年まで存命だったこともあり、
レコード録音の電気録音時代まで
活動したことで多くの録音が残されています。
さて、ワインガルトナーは、
現代のベートーヴェン演奏の規範となる考え方や
特に第九のコンサート運営に関しての基礎を築いた人です。
1906年にワインガルトナーは、
『ある指揮者の提言-ベートーヴェン交響曲の解釈』を発表しています。
この本の中で、ワインガルトナーは、「第九」について、こう書いています。
「第九交響曲について議論することは、最も偉大であり、最も難しい管弦楽作品に近づくことを意味している。この作品の明快で正確な、そして精神的に充実し、しかも力強く演奏は、演奏解釈学の最も大きな課題に属する。」
また第九のコンサートに関して、合唱団の登場に関して、
ワインガルトナーは、最初からステージにいるべきだとして、
これが現代にも受け継がれています。
それまでは、第三楽章が終わってから
合唱団がぞろぞろと登場するもので、
せっかくの第三楽章から第四楽章へ
ドラマチックに音楽が変わるのに、
その効果が得られないと批判しました。
ワインガルトナー歴史的な名盤 ベートーヴェン交響曲第9番
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン – Ludwig van Beethoven (1770-1827)
交響曲第9番 ニ短調 「合唱付き」 Op. 125
Symphony No. 9 in D Minor, Op. 125, “Choral”
作詞 : フリードリヒ・フォン・シラー – Friedrich von Schiller
1.(15:30)I. Allegro ma non troppo, un poco maestoso
2.(10:01)II. Molto vivace
3.(14:47)III. Adagio molto e cantabile – Andante moderato
4.(05:47)IV. Finale: Presto
5.(03:37)IV. Finale: Presto
6.(04:32)IV. Finale: Allegro assai vivace
7.(02:37)IV. Finale: Andante maestoso
8.(02:00)IV. Finale: Allegro energico, sempre ben marcato
9.(02:39)IV. Finale: Allegro ma non tanto
10.(01:39)IV Finale – Poco allegro stringendo il tempo, sempre piu allegro
total(63:09)
ルイーゼ・ヘレツグルーバー – Luise Helletsgruber (ソプラノ)
ロゼッテ・アンダイ – Rosette Anday (コントラルト)
ゲオルク・マイクル – Georg Maikl (テノール)
リヒャルト・マイヤー – Richard Mayr (バス・バリトン)
ウィーン国立歌劇場合唱団 – Vienna State Opera Chorus
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 – Vienna Philharmonic Orchestra
フェリックス・ワインガルトナー – Felix Weingartner (指揮)
録音: 2-4 February 1935, Mittlerer Konzerthausaal, VIenna
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(ウィーン・フィル/ワインガルトナー)(1935)
レビュアー: CD帯紹介文 投稿日:2010/03/01
ロマン主義の指揮者がともすれば陥りがちな過剰な感情表出を拒み、中庸の美学を追究したワインガルトナー。その彼も、初期には「第九」を指揮して、興奮のあまり自制心を失い、恐ろしいばかりの手振り身振りを披露したとされています。後に自身の美学を獲得するにあたり、そうした挙動はなりを潜め、制約された動きの中、バランス感覚のとれた、心地よい緊張をはらむ音楽を奏でるように変わっていったのでした。第4楽章で重責を担うバス・ソロは、胆力溢れる偉丈夫マイア。ウィーン国立歌劇場を中心に活動し、「ばらの騎士」やマタイ受難曲などで名を残しています。
ワインガルトナーの名盤 現代に通じる端正な演奏
1960年代に録音された
ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮ウィーンフィルの
ベートーヴェン交響曲全集は、ベートーヴェン演奏の規範と言われていますが、
この全集に対して、ワインガルトナーの流れをくんだ全集と言われることがあります。
僕は、ハンス・シュミット=イッセルシュテット&ウィーンフィルの全集は、
現在、ただ一つ選ぶとしたらこれっ!と思っていますが、
ワインガルトナーの演奏を聴くとその意味がよくわかりました。
また、まだ貧しい録音技術にもかかわらず、
ウィーンフィルの優雅な演奏が聴き取れてうれしい限りです。
ワインガルトナーの全集、とりわけ第九の演奏は、
ベートーヴェンの演奏の歴史を知るうえでまたとない記録であり、
しかも鑑賞としても十分楽しめる録音です。
まとめ
現在の「第九」公演のスタイルは、
ワインガルトナーを起源としているところが多いようです。
1908年にマーラーの退任を受けて、
ワインガルトナーは、ウィーン宮廷歌劇場の音楽監督となり、
同時にウィーン・フィルハーモニーの音楽監督となりました。
以降、19年間で彼はウィーンフィルの演奏会を420回も指揮しました。
また、ワインガルトナーは、電気録音時代になると、
ウィーンフィルやロンドン響、ロイヤルフィル、ロンドンフィルを指揮して、
1927年から38年までかけてベートーヴェンの九曲全てを録音しました。
これは、ひとりの指揮者による
ベートーヴェンの交響曲全曲録音として史上初でした。
「第九」レコード史上、そして「第九」演奏指南書史上、
ワインガルトナーは、重要な指揮者だったのです。
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