こんにちは、
ともやんです。
1957年生まれの僕にとっては、19世紀生まれの巨匠たちが活躍した50年から60年代の実演を聴くことは出来ませんでした。
トスカニーニ、ワルター、シューリヒト、クレンペラー、フルトヴェングラー、クナッパツブッシュといった20世紀も60年代まで活躍した巨匠たちは来日することもなく、彼らの演奏は、録音で聴くことしかできません。
でも、音楽関係の仕事をしてたわけでもなく、1955年から59年に掛けて、銀行員としてロンドンに駐在していた植村攻氏は、仕事そっちのけ?で、ロンドン中心にザルツブルクやバイロイトに出かけ、当時の巨匠たちの演奏を聴きまくられました。
羨ましい限りで、しかもその記録が生き生きとした文章で本になっています。
『巨匠たちの音、巨匠たちの姿』
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『巨匠たちの音、巨匠たちの姿』(1950年代・欧米コンサート風景)植村攻著。
植村氏は、当時の富士銀行のロンドン支店勤務時に、ロンドンでのコンサートはもちろん、いろんな幸運もあって
ザルツブルク音楽祭やバイロイト音楽祭に出かけました。
植村氏のやりくり上手もあるでしょうが、それを許した寛容な社風や上司の方も素晴らしいと思います。
ミトロプーロスのモーツァルト『ドン・ジョバンニ』1956年7月24日
植村氏が、ザルツブルク音楽祭で最初に聴いたのが、モーツァルトの『ドン・ジョバンニ』でした。
指揮は、ディミトリ・ミトロプーロス、オーケストラはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。歌手陣も当代最高の配役でした。
また植村氏に文章が見事。
“私は、ロンドンでも、この人の指揮を聴いたが、或る時は両手をだらりと真下に伸ばしたまま腰のあたりでちょっと動かすだけの時もあれば、大きくタクトを振って激しい動きもすることがあるという、その時によって指揮のスタイルを変える人で、達者だが一風変わった指揮者だと思っていた。
この日に薄明かりの中で見たミトロプロスは、禿頭の長身を譜面台からオーケストラに屈み込むように折り曲げ、精細にバトンを動かして、速めのテンポで歯切れの良い音楽をつくっていたように覚えている。”
ミトロプーロスのモーツァルト『ドン・ジョバンニ』1956年7月24日
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この時の録音がCD化されています。
ミトロプーロス 清貧と静けさを愛した『ギリシアの哲人』
ディミトリ・ミトロプーロス(1896-1960)は、『ギリシャの哲人』と呼ばれた、ギリシャのアテネ出身の名指揮者です。
2つ年上にカール・ベームがいます。
30年代よりアメリカで活躍し、1950年にニューヨークフィルハーモニックの音楽監督に就任し、58年に若きレナード・バーンスタインに後事を託して退任しました。
ミトロプーロスは、少年期に音楽を愛するあまり聖職者になることを断念した人ですが、その後も生涯に渡って、神に仕える身であることを証明した人です。
大指揮者としてアメリカで暮らすようになってもスター指揮者とは程遠いく暮らしぶりで、清貧を愛し、巨額の収入を後進の音楽家や不幸な同僚のために喜んで役立てたそうです。
また生涯妻をめとることなく、社交の華やかさより閑居の静けさを愛した人でした。
ミトロプロースのモーツァルト『ドン・ジョバンニ』
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト – Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)
(175:11)歌劇「ドン・ジョヴァンニ」 K. 527
Don Giovanni, K. 527
作詞 : ロレンツォ・ダ・ポンテ – Lorenzo Da Ponte
チェーザレ・シエピ – Cesare Siepi (バス)
ゴットロープ・フリック – Gottlob Frick (バス)
エリーザベト・グリュンマー – Elisabeth Grummer (ソプラノ)
レオポルド・シモノー – Leopold Simoneau (テノール)
リーザ・デラ・カーザ – Lisa Della Casa (ソプラノ)
フェルナンド・コレーナ – Fernando Corena (バリトン)
ウォルター・ベリー – Walter Berry (バス・バリトン)
リタ・シュトライヒ – Rita Streich (ソプラノ)
ウィーン国立歌劇場合唱団 – Vienna State Opera Chorus
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 – Vienna Philharmonic Orchestra
ディミトリ・ミトロプーロス – Dimitri Mitropoulos (指揮)
録音: 24 July 1956, Live recording, Salzburg Festival, Felsenreitschule, Salzburg, Austria
ミトロプーロス晩年のウィーン・フィルとのドン・ジョバンニ。いわゆる「ギリシャの哲人」なるニックネームで呼ばれていた頃の代表的な演奏です。
ドン・ジョヴァンニは無論シエピ、フリック=騎士長、グリュンマー=ドンナ・アンナ、シモノー=ドン・オッターヴィオ、デラ・カーザのドンナ・エルヴィラ、コレナ=レポレロ、ヴァルター・ベリー=マゼット、ツェルリーナはリタ・シュトライヒと、目の眩むような配役です。
ザルツブルク音楽祭の頂点を示す貴重な記録ですね。余白にはデラ・カーザのリート集が収められています。
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