クラシック音楽の楽しみの一つに同曲異演を聴き較べる楽しみがあります。
つまり同じ曲を別の演奏家同士で比べてみるわけです。
作曲家の作った楽譜は、料理のレシピと考えてみても良いと思います。
楽譜には、楽器編成と各楽器ごとの旋律や強弱、そして全体のテンポなど細かく指定されています。それを演奏家は、楽譜通りにしかも作曲家の意図をくみ取り、自分なりの解釈で演奏するわけです。
当然、演奏家によって聴こえてくる音楽は違ってきます。
また同じ演奏家でも、コンサートホールでの実演とスタジオでの録音でも違ってきます、もっと言えば、全く一緒という演奏はないのですね。
これは料理も同じだと思います。
同じレシピで作っても、出来上がったものは料理人によって違いますし、同じ料理人でも厳密に言えば、全く同じものはないわけです。
さて、今日は、共に1908年生まれで今年生誕110周年を迎える二人の偉大な指揮者の演奏を聴き較べたいと思います。
曲は、ベートーヴェンの交響曲第1番。
そして、演奏家はヘルベルト・フォン・カラヤンと朝比奈隆です。
ベートーヴェン交響曲第1番ハ長調作品21
1800年、ベートーヴェンが29才の時に完成。
同年4月2日、ウィーンのブルク劇場で自らの指揮により初演しました。
ボンからウィーンに出てきて8年、すでに二曲のピアノ協奏曲や少なからぬ数の室内楽曲を発表していたベートーヴェンが、満を持して放った彼の最初の交響曲でした。
第三楽章は伝統にしたがって「メヌエット」と題されてはいましたが、その奔放な楽想はすでにのちの「スケルツォ」を予告していました。
楽器編成:弦楽5部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ
第1交響曲は、革新的なベートーヴェンもさすがに保守的な手法で発表しています。
第一楽章は、先輩ハイドンに倣って序奏部を置いています。楽想は質実剛健で、地味な第二楽章、型にはまったフィナーレなど、次の第2交響曲に比べるとかなり伝統的手法です。
面白いのは第三楽章は内容的にはスケルツォなのにメヌエットと称しているところなど、多少周囲の反応に気を使っていたのでしょうか?
ベートーヴェン交響曲第1番 カラヤン=フィルハーモニア管
Ⅰ(07:31)Adagio molto-Allegro con brio
Ⅱ(06:15)Andante cantabile con moto
Ⅲ(03:44)Menuetto:Allegro molto vivace-Trio
Ⅳ(05:40)Adagio-Allegro molto e vivace
録音:1953年6月 モノラル
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
フィルハーモニア管弦楽団
カラヤンは、生涯で4回のベートーヴェンの交響曲全集を録音しています。このフィルハーモニア管との全集が一番最初です。
録音期間は、1952年から55年まで時期的にモノラルなのは致し方ないが、最後が55年7月の第9番がモノラルなのに、その前の55年5月に録音した第8番が、ステレオというもの面白い現象です。
当時はモノラルからステレオへの移行期でまだステレオ録音が確立していなかったためと思われます。
さて、演奏は、柔軟で丁寧な演奏で、華やかさの中にきめ細やかさがあり、好感が持てます。
終楽章に向かって盛り上げていく感じで、終楽章は豪奢な中にも力強さや激しさも盛り込まれています。
この第1番録音当時は、トスカニーニもフルトヴェングラーも健在でした。
カラヤンのスタイルはどちらかというとトスカニーニのスタイルに近いと思っていましたが、このフィルハーモニア管との全集と聴くと、両者とも違うすでにカラヤンの柔軟で丁寧は音楽つくりが確立していたように思います。
もっともカラヤンもすでに40代後半差し掛かっていたので、当然と言えば当然でしょう。
ベートーヴェン交響曲第1番 朝比奈=N響
Ⅰ(10:14)Adagio molto-Allegro con brio
Ⅱ(07:01)Andante cantabile con moto
Ⅲ(03:48)Menuetto:Allegro molto vivace-Trio
Ⅳ(06:06)Adagio-Allegro molto e vivace
録音:1967年10月17日 東京文化会館でのライブ録音
第491回定期演奏会
朝比奈隆指揮NHK交響楽団
朝比奈隆が、NHK交響楽団の定期演奏会を指揮した珍しい録音です。
オーケストラの力量もあるからでしょうか、後年の朝比奈の質実剛健は音楽つくりがしっかり表現されていると思います。
カラヤンに比べてテンポは遅く、カラヤンの柔らかさに比べてかなりゴツゴツした感じを受け、コチラの方がベートーヴェンのイメージにかなと思います。
なお、この日の定期演奏会のプログラムは、第1番に加えて、第3番”エロイカ”とエグモント序曲でしたが、第1番一番朝比奈らしい出来で、残念ながらエロイカは、やや不完全燃焼的な出来で、客演ということで十分練習できなかったのかな、と感じてしましました。
まとめ
以前の僕なら、同曲異演を聴き比べする時は順位をつけたりしたこともありました。
でも今はしません。
それは、クラシックの演奏の良し悪しは、べつに計測できるものさしがあるわけではなく、聴き手がどう感じるかだけだからです。
しかも聴き手も人間ですから、1年前に聴いた時と、今聴いた時では違います。
だから僕は聴き比べをする時は優越を付けることはしません。
どんな感じを受けたかを正直に記していきたいと思います。
まあ、多少好き嫌いは言うかもしれませんが。。。
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