こんにちは、
ともやんです。
先日、最近入手したCDを聴きました。
ピアニストのアリス=紗良・オットによるベートーヴェンの協奏曲と独奏曲集。
協奏曲の方は、僕が大好きな第1番で、これは名演の名盤がめじろ押しですが、その中でも注目していました。
そのひとつが、現在その実力が認められ注目されるようになった女性指揮者のカリーナ・カネラキスが伴奏指揮をしているからです。
早速レビューしたいと思います。
オット&カネラキスのベートーヴェン第1番
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン – Ludwig van Beethoven (1770-1827)
ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 Op. 15
Piano Concerto No. 1 in C Major, Op. 15
1.(14:29) I. Allegro con brio
2.(09:56) II. Largo
3.(08:58) III. Rondo: Allegro
total(33:23)
アリス=紗良・オット – Alice Sara Ott (ピアノ)
オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団 – Netherlands Radio Philharmonic Orchestra
カリーナ・カネラキス – Karina Canellakis (指揮)
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ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調「月光」 Op. 27, No. 2
Piano Sonata No. 14 in C-Sharp Minor, Op. 27, No. 2, “Moonlight”
4.(05:23) I. Adagio sostenuto
5.(02:18) II. Allegretto
6.(07:52) III. Presto agitato
total(15:33)
7.(02:46)バガテル イ短調「エリーゼのために」 WoO 59
Bagatelle in A Minor, WoO 59, “Fur Elise”
8.(02:08)11のバガテル Op. 119 – 第1番 ト短調
11 Bagatelles, Op. 119: No. 1 in G Minor
9.(01:33)バガテル ハ長調「楽しい – 悲しい」 WoO 54
Bagatelle in C Major, WoO 54, “Lustig-Traurig”
10.(02:09)アレグレット ロ短調 WoO 61, Hess 62
Klavierstuck in B Minor, WoO 61, Hess 62
アリス=紗良・オット – Alice Sara Ott (ピアノ)
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番遍歴
僕は、ベートーヴェンの5つのピアノ協奏曲の中でも第1番を一番好きです。
しかし、以前は初期の作品である第1番と第2番を聴かない期間が長かったのです。
第3番以降の作品ばかり聴いていました。
これは全く偏見で、CDの紹介でも多くが、第3番を取り上げていることが多かったので、初期の第1番と第2番はつまらないと勝手に思い込んでいたのです。
しかし、好きなピアニストのアルゲリッチは、逆に第1番や2番を多く取り上げて録音も複数残しています。
これには何か理由があると思い、まずアルゲリッチがシノーポリと共演したCDを聴きました。
うーん、なかなかいいではないか。特に第1番には魅かれるものを感じました。
次に聴いたのが、バックハウスがシュミット=イッセルシュテットと共演したもの。
バックハウスの華があり堅実なピアノと伴奏指揮とオーケストラの妙技惚れ惚れと聴き入り、第1番への思いは膨らんで行きました。
そして決定的になったのは、アルゲリッチが小澤征爾&水戸室内管と共演した録音でした。
特にアルゲリッチのピアノに涙が出るほど感動したのです。
だからいままでは、バックハウス盤とアルゲリッチ&小澤盤が僕の愛聴盤でした。
それに一枚加わって来たのが、オット&カネラキス盤なのです。
時代が求めた新たな共演
クラシック音楽の世界にも、ついに「新しい時代」がやってきたと感じます。
長らく男性中心とされてきた指揮者の世界に、ここ10年で風向きが変わり、才能ある女性たちが次々と頭角を現してきています。
そんな中、いま世界で注目を集めている指揮者のひとりがカリーナ・カネラキス。
そして、ピアノ界で確かな存在感を放ち続けるアリス=紗良・オット。
この二人が、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番で共演した録音を聴いたとき、僕はまさに「時代が変わった」ことを感じました。
しなやかで、芯のある音楽。
その背景を探ってみたくなりました。
アーティスト紹介:オットとカネラキス
アリス=紗良・オットは、父親がドイツ人で母親が日本人というルーツを持ち、10代で世界に躍り出たピアニストです。
彼女は、単なる技巧派ではなく、音楽の背後にある「物語」を大切にしている彼女の演奏は、リスナーの心をやさしく揺さぶってくれます。
難病の公表を経ても、なお彼女の音楽は明るく、真摯で、未来を見つめていると感じます。
今回のベートーヴェン録音も、その一環として“今の彼女”を感じることができる名演です。
実が彼女が難病を公表した後、実演を聴きました。
コロナ前ですからもう6年ほど前でしょうか。
井上道義指揮の日本フィルとの共演で、リストの曲を聴きました。
難病の事もあり、今後なかなか聴けなくなるんではないかという心配もあったのです。
しかし、ステージ上の彼女は、このまま倒れてしまうんじゃないかと感じるほどその演奏に全身全霊で集中していました。
カリーナ・カネラキスは、アメリカ・ニューヨーク生まれ、ヴァイオリニストとして活動したのち指揮の道へ進んだ音楽家です。
女性として初めてオランダ放送フィルの首席指揮者に就任した彼女は、表現の明晰さと情熱の両立を武器に、ヨーロッパ各地で躍進中です。
最近ではオランダ放送フィルの任期も2031年まで延長され、世界が認める存在になりつつあります。
柔らかさと厳しさが共存するその音楽作りは、今後のクラシック界に新風を吹き込むだろうと感じています。
ベートーヴェン第1番の解釈と響き
このベートーヴェンの協奏曲第1番(実際は第2番よりも後に出版された)は、若きベートーヴェンの希望や野心が詰まった作品です。
冒頭、オーケストラによる提示部から、カネラキスは引き締まったアンサンブルを作り上げ、まるで室内楽のような対話の始まりを感じさせてくれます。
そこに、アリス=紗良・オットのピアノがごく自然に入ってくるのが印象的でした。
タッチは軽やかで透明感がありつつも、要所ではしっかりと芯がある。
第2楽章の静けさの中にも、まるで語りかけるような温かみがあり、ベートーヴェンのロマンを引き出していると思います。
終楽章ではピアノとオーケストラが軽妙に掛け合い、息の合ったテンポ感で疾走する様子は、まさに信頼関係があってこそ生まれる音楽の喜び。両者が互いを深く理解していることが、演奏全体から伝わってきます。
オットの独奏では、「エリーゼのために」が秀逸です。
2分少々の曲ですが、情感を込めすぎることなく、逆に抑制を効かせ、かえって心に沁みてきます。
ただ残念なのは、「月光」ソナタの第3楽章の強奏部分が鋭すぎる感があり、少し引いてしまいました。
第1楽章、第2楽章と素晴らしいので残念です。
さて、この2人、2025年7月東京都交響楽団の演奏会でラヴェルの協奏曲ト長調でも共演します。
なんとか時間をやりくりして聴きに行きたいですね、なんて気楽に考えてチケットぴあに行ったら、なんと完売!
そこで、都響のチケット案内にアクセスしたら、7月4日(金)の夜公演は完売。
なんとか翌5日の昼公演が3枚だけ残っていてなんとか入手出来ました。
そんなことでとっても楽しみです。
まとめ
結びとして、女性の時代とクラシック音楽の未来を考えてみました。
ベートーヴェンの若き日の協奏曲を、現代を代表する女性アーティストたちがこうして命ある音楽としてよみがえらせたことは素晴らしいことです。
それは、クラシックが今もなお進化し続けている証だとも感じます。
オットとカネラキス、それぞれの音楽に対する誠実な姿勢と、時代を切り開く力にこれからも応援して行きたいと思います。
特にカネラキスは、今回初めて録音を聴いたので注目して行きます。
今後もこの2人の動向から目が離せないですね。
そう思わせてくれる、珠玉の録音でした。



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