こんにちは、
ともやんです。
最近になって、その気品と哀愁に満ちた響きに心を打たれた作品があります。
それが、イギリスの作曲家エドワード・エルガーによる《交響曲第1番》です。
今回は、尾高忠明指揮・大阪フィルハーモニー交響楽団による名演とともに、この魅力あふれる作品についてご紹介します。
エドワード・エルガーとは
エドワード・エルガー(Edward Elgar, 1857-1934)は、イングランド中部・ブロードヒースに生まれました。
父はオルガン奏者で楽譜店を営んでおり、幼い頃からエルガーは音楽に囲まれた環境で育ちます。
正式な音楽教育を受けたわけではなく、ほとんど独学で作曲や指揮法を身につけた彼は、12歳のときに最初の作品《青年の指揮棒》を書き上げました。
長らく地方都市でオルガン奏者やヴァイオリニスト、アマチュアの指揮者として静かな音楽生活を送っていましたが、転機が訪れたのは1889年のこと。
9歳年上のキャロライン・アリス・ロバーツと結婚してからでした。
彼女は詩作にも通じた教養ある女性であり、エルガーの才能を誰よりも信じ、励まし続けた伴侶です。
エルガーは後年、「彼女の支えがなければ、作曲家にはなれなかった」と語っています。
尾高忠明×大阪フィルの名演
エルガー:交響曲第1番 変イ長調 作品55
Edward Elgar – Symphony No.1 in A-flat major, Op.55
1.Andante nobilmente e semplice – Allegro(約18分)
2.Allegro molto(約7分)
3.Adagio(約12分)
4.Lento – Allegro(約12分)
演奏時間:約50分
演奏:尾高忠明 指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団
録音:2019年1月17?18日(フェスティバルホール大阪)、22日(サントリーホール東京)ライヴ収録
『尾高忠明×大阪フィル:エルガー交響曲第1番』タワーレコード
ここには、大阪フィルの骨格豊かな響きを礎に、威風と風格に満ちたドラマティックで熱気あふれるエルガーを聴くことができます。
大阪フィルにはエルガーが良く似合う、と尾高が公言したとおり、この作曲家を愛するすべてのファンにお聴きいただきたいアルバムです。
オクタヴィア・レコードより
「高貴に、そして簡素に」
この交響曲の冒頭を飾る主題には、「ノビルメンテ・エ・センプリーチェ(高貴に、そして簡素に)」という表情記号が付されています。
これは単なる音楽的指示ではなく、まさにエルガーという人物の品格、そして作品全体の精神を象徴しているように思えてなりません。
尾高忠明指揮・大阪フィルの演奏は、まさしくその理念を体現しています。
誇張された感情表現はなく、自然体で、気品と温かみをたたえた音楽が丁寧に紡がれていくのです。
中でも、第3楽章のアダージョはとりわけ印象的でした。
ただただ美しく、懐かしく、胸が締めつけられるような哀愁に満ちています。
エルガーの内面がにじみ出たような楽章です。
私が初めてこの作品を聴いたのは、アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団による名録音でした。
その時感じた「気品ある音楽」の魅力が、尾高指揮の演奏で一層深まり、今ではこの曲が自分にとってかけがえのない存在となりました。
初演と「ブラームス第5番」説
エルガーが交響曲第1番を完成させたのは、彼が51歳のとき、1908年のことです。
やや遅咲きの交響曲作家ではありますが、その完成度は非常に高く、初演後1年で100回あまりも演奏されるほどの大成功を収めました。
初演を指揮したのは、あの名匠ハンス・リヒター。
リヒターはブラームスの交響曲第3番やブルックナーの第8交響曲の初演でも知られ、エルガーの《エニグマ変奏曲》なども手掛けています。
この第1番は、その重厚な構成と豊かな旋律から「ブラームスの第5交響曲」とも呼ばれることがあります。
もちろんそれは安易な模倣ではなく、エルガー独自の品格と感情の深みが光る作品です。
僕はブラームスの内省的なセンチメンタリズムも好きですが、エルガーにはそれとはまた違った、より広がりのある哀愁と誠実さを感じます。
アリスという伴侶の存在
歴史に名を残す作曲家で、愛ある結婚によって創作の高みに到達した人は、実はそう多くありません。
ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナーのように生涯独身を貫いた音楽家も多い中で、エルガーは珍しい例と言えるでしょう。
彼の才能を信じ、支え続けたキャロライン・アリス・ロバーツの存在なくして、名作《エニグマ変奏曲》も、交響曲第1番も生まれなかったかもしれません。
実際、1920年に彼女を失ってからのエルガーは、霊感を失い、事実上作曲活動を終えてしまいます。
それだけに、この交響曲第1番は、アリスとの愛と信頼が形となって響いてくるように思えてなりません。
おわりに
「高貴に、そして簡素に」──この言葉は、エルガーの音楽のみならず、彼の人生そのものを語っているようです。
尾高忠明さんの指揮による演奏は、その精神を尊重しながら、現代の私たちの心にそっと寄り添ってくれるような優しさがあります。
まだ聴いたことのない方は、ぜひ一度、耳を傾けてみてください。
気品と哀愁に満ちたエルガーの世界が、きっとあなたの心に静かに届くはずです。
おすすめ音源
アンドレ・プレヴィン指揮/ロンドン交響楽団(EMI)
※現在廃盤の様です。
—————–
ジョン・バルビローリ指揮/フィルハーモニー管弦楽団()
—————–
サー・コリン・デイヴィス指揮/LSO(LSO Live)
コメント