クレンペラーの「運命」は奇跡の復活劇が生んだ伝説の名演

ベートーヴェン
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こんにちは、ともやんです。

2025年9月4日のEテレ午後9時からの「クラシックTV」は、ベートーヴェン特集でした。
特にベートーヴェン30代半ばからの10年間に焦点を当てていました。
作家ロマン・ロランによって「傑作の森」と言われた時期で、ベートーヴェンの傑作と言われる曲が多く作曲された時期です。

交響曲では、第5番から第8番が作られた時期です。

その中で交響曲第5番ハ短調作品67
俗に後世の人により「運命」と名付けられた傑作。

僕は、この作品のCDを何十枚と持っています。
もしその中で一枚だけ取り上げろ、と言われれば迷わず、

1959年にオットー・クレンペラーがフィルハーモニア管を振って録音したEMIの正規録音を挙げます。

現代の古楽器スタイル全盛の耳に慣れた耳には、あまりにも遅いテンポと重いリズムで、むしろドンくさいと感じるかもしれません。

でもこれがいいんです。
それについて以下に記したいと思います。

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クレンペラーの「運命」は異彩を放つ

ベートーヴェンの交響曲全集と言うと、クラシック音楽の指揮者に取って、ひとつのステータスなのでしょう、多くの指揮者が録音を残しています。
正規の録音残されているものは、いくつあるか分かりませんが、100以上、いや何百とあるかもしれません。

僕はその中で聴いてきたのは、数えたことはありませんが、30から40くらいだと思います。その程度で偉そうなことは言えませんが、聴いた中でひときわ異彩を放っていたのが、オットー・クレンペラーがフィルハーモニア管弦楽団と録音したベートーヴェンの交響曲全集です。

EMIが正規のステレオ録音としてリリースしたこの全集は、1957年から1960年にかけて制作されました。

数あるクレンペラーのベートーヴェン録音の中でも、最も安定してその真価を味わえる、まさに規範ともいうべきシリーズです。

全集を二分する「運命の転換点」

この全集の録音は、大きく分けて二つの時期に分けることができます。
まず1957年10月に、交響曲第1番、第2番、第4番、第6番『田園』、第8番、そして第9番が録音されました。
続いて、2年後の1959年10月に第3番『英雄』と第5番『運命』、そして翌1960年10月から11月にかけて第7番が録音されています。

興味深いのは、この録音時期によって、演奏内容の「質」に大きな違いが見られることです。
多くの評論家や愛好家が指摘するように、1957年の録音に比べて、1959年以降の録音は、作品の核心に迫る圧倒的な説得力を持ち、まさにレコード史上に残る名演として君臨しています。
この劇的な変化は、単なる偶然ではありません。その裏には、老巨匠に訪れた「運命」としか言いようのない、ある出来事があったのです。

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クレンペラー:死の淵から蘇った巨匠

1957年の録音後、クレンペラーは体調を崩し、1958年に大病を患いました。
一度は回復したものの、その直後、思いがけない事故に見舞われます。
病床で喫煙中にシーツを焦がしてしまい、慌てて水をかけようとしたところ、誤って可燃性の高いアルコールをかけてしまったのです。
その結果、火は燃え上がり、クレンペラーは全身に瀕死の重度の火傷を負いました
一時は生命の危機に瀕しましたが、奇跡的に一命を取り留めます。

この絶望的な状況下、彼の病室を訪れた人物がいました。
稀代の音楽プロデューサーとして知られるウォルター・レッグです。
フィルハーモニア管弦楽団の創設者でもあるレッグは、苦難の道を歩んできたクレンペラーに対し、フィルハーモニア管との「終身契約」を申し出ます。

これは、肉体的にも精神的にも限界に達していた巨匠にとって、どれほど大きな救いとなったでしょうか。
レッグはクレンペラーの音楽に対する深い信頼と尊敬を示し、彼が再び指揮台に戻ることを信じて疑わなかったのです。

1959年8月、クレンペラーはその申し出を受諾し、正式にフィルハーモニア管弦楽団,
初の常任指揮者に就任しました。

この決定が、彼の人生に新たな光をもたらします。

70代半ばに差しかかっていた老指揮者は、まるで青年に戻ったかのように気力を回復させ、驚くべき精力をもって大曲の録音やコンサートに臨むようになったのです。

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新たな魂が吹き込まれた『運命』

そして、その復活劇の直後に録音されたのが、1959年10月の『英雄』と、今回取り上げる『運命』です。
どちらもクレンペラーの指揮芸術の真髄が凝縮された傑作ですが、特に『運命』は、その重厚さと格調の高さにおいて、この全集の中でも最も特別な輝きを放っています。
しかも改めて聴くと細部まで神経が行きわたり、しかも雄々しい気迫が内包しているのです。

この演奏を聴けば、なぜ多くの人々がこの録音を絶賛するのかが理解できるでしょう。当時、辛口の批評で知られた日本の音楽評論家、宇野功芳氏が、フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルによる1947年の録音や、トスカニーニ指揮NBC交響楽団による1939年の録音と並んで、このクレンペラー盤を「同曲のレコード中ベスト3」の一つとして挙げたことからも、その評価の高さがうかがえます。

クレンペラーの指揮は、決して速いテンポで畳み掛けるような現代的なものではありません。

現代の古楽器演奏に慣れた耳には、時に前時代的で古色蒼然とした表現に聴こえるかもしれません。
しかし、その一音一音は、細部にまで神経が行き届いた、徹底した構造主義的アプローチによって築き上げられています。遅いテンポの中で繰り広げられる、重厚かつ厳格な音楽の構築は、聴く者に揺るぎない安定感と圧倒的なスケール感を与えます。

第一楽章冒頭の有名な「運命の動機」は、決して前のめりになることなく、一歩一歩、大地を踏みしめるように力強く提示されます。

第四楽章の、勝利を確信したかのような行進曲風のテーマは、勝利の歓喜をこれでもかとばかりに雄弁に語り、圧倒的なカタルシスをもたらします。この演奏には、表面的な美しさや技巧を超えた、人間存在の根源的な生命力と、苦難を乗り越えて掴み取った勝利の喜びが刻み込まれているのです。

CDの紹介

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン – Ludwig van Beethoven (1770-1827)
交響曲第5番 ハ短調「運命」 Op. 67
Symphony No. 5 in C Minor, Op. 67

1.(08:56) I. Allegro con brio
2.(11:13) II. Andante con moto
3.(06:14) III. Allegro –
4.(13:28) IV. Allegro
total(39:51)

フィルハーモニア管弦楽団 – Philharmonia Orchestra
オットー・クレンペラー – Otto Klemperer (指揮)

オットー・クレンペラー ベートーヴェン:交響曲 第5番 「運命」他

オットー・クレンペラー指揮による交響曲第5番≪運命≫は、今や誰もなし得ないほど巨大なスケールの世界を作り上げている唯一無二の大演奏。曲の個性もベートーヴェンの個性も全く損なわない、クレンペラーにしかできない至芸である。「シュテファン王」序曲も同様に雄大な演奏。共演はフィルハーモニア管弦楽団。タワーレコード・オンラインショップより

まとめ

クレンペラーにとって、1959年は、文字通り「再生の年」となりました。
それは彼の人生における転換点であり、その後の膨大な録音やコンサート活動の源泉となったのです。

そして、その奇跡的な復活劇は、録音でしか彼に接することができない世界中のクラシック音楽ファンにとっても、かけがえのない贈り物となりました。

この演奏は、単なる音楽の記録ではありません。
それは、死の淵から蘇り、新たな生命力を得た巨匠の、魂の叫びであり、人生の重みが詰まった芸術作品です。

クレンペラーの指揮から、人間が持つ偉大な力、苦難を乗り越える不屈の精神を感じ取ることができるます。
そして、その力こそが、ベートーヴェンの音楽の真髄であり、クレンペラーがその生涯をかけて追い求めたものではないかと僕は思います。



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