こんにちは、
ともやんです。
ブラームスというと渋く内省的な音楽を創作した作曲家です。
その本領は、室内楽やピアノ曲に発揮されていると思います。
しかし、さすがに19世紀を代表する実力者ですから、交響曲や協奏曲などの管弦楽の大曲でも、傑作を多く残しています。
特に4つの交響曲は、コンサートでもCD等でも人気の高い作品です。
特に第1番は、ベートーヴェンの作品を抜いてトップになることもある人気曲です。
そんなブラームスの交響曲全曲をトスカニーニが、晩年の1952年にロンドンのフィルハーモニア管に客演した録音がCDで出ています。
今回はそれをご案内したいと思います。
トスカニーニ最晩年の隠れた名盤の登場
クラシック音楽ファン、そして指揮芸術の歴史において、アルトゥーロ・トスカニーニ(Arturo Toscanini,1867-1957)という巨匠の名前は特別な光彩を放っています。
「音楽の神様」「厳格な楽譜の忠実な再現者」として知られる彼が、最晩年に残した遺産はどれをとっても歴史的ドキュメントとしての価値を持っています。
その中でも、今回取り上げる1952年のロンドンでの客演、フィルハーモニア管弦楽団を率いたブラームスの交響曲全曲演奏会のライヴ録音は、長年コレクターの間で聖杯(グレイル)の一つとして語り継がれてきた伝説的な音源だと思います。
これまでもトスカニーニ協会のプライヴェート盤や一部の海賊盤などで断片的にディスク化されることはありましたが、今回ついに、英国EMIの正規マスター(プロデューサーであったウォルター・レッグの所有原盤)から待望の本格的なCD化が実現しました。
単なる「歴史的記録」の枠を超え、音楽的にも極めて高い緊張感と充実度を誇るこの全集の魅力に深く迫ってみましょう。
ウォルター・レッグとミラノでの交渉劇
この歴史的コンサートがいかにして実現したのか、その背景には英国EMIの伝説的音楽プロデューサーであり、フィルハーモニア管弦楽団(1945年創立)の創立者・芸術監督であったウォルター・レッグ(Walter Legge)の並々ならぬ執念と情熱がありました。
時は1952年5月、レッグはヘルベルト・フォン・カラヤンを指揮者に迎えてヨーロッパへの大規模な演奏旅行を行っていました。
その道中、レッグはミラノの自宅にトスカニーニを訪ね、フィルハーモニア管弦楽団
への客演を熱心に依頼しました。当時、トスカニーニはすでに85歳という高齢であり、健康上の理由から一度はこの申し出を丁重に断っています。
しかし、運命の歯車を動かしたのが「中継放送」でした。トスカニーニはその後、ミラノで行われたコンサートの中継放送を偶然耳にし、そこで演奏していたフィルハーモニア管弦楽団のあまりのレヴェルの高さ、アンサンブルの精緻さと美しさに深く感銘を受けました。
「このオーケストラなら自分の音楽を具現化できる」と確信した巨匠は自ら承諾の意を示し、奇跡的な客演コンサートの実現へと向かったのです。
ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでの歴史的セッション
コンサートが開催されたのは、1952年9月29日と10月1日。
会場となったのは、前年の1951年に「フェスティヴァル・オブ・ブリテン」の一環として完成したばかりの、ロンドンにおける最新鋭のコンサートホール「ロイヤル・フェスティヴァル・ホール」でした。
モダンで優れた音響を誇るこの真新しいホールで、当時85歳のトスカニーニがイギリス最高峰のオーケストラであるフィルハーモニア管弦楽団をどのように統率したのかは想像に難くありません。
トスカニーニといえば、NBC交響楽団とのタイトで引き締まった、やや矢継ぎ早ともいえるドライな演奏スタイルが有名ですが、このロンドン公演では、イギリスのオーケストラが持つ豊かな響きや柔軟性を巧みに引き出しつつ、ブラームスがスコアに込めた熱情とロマンティシズム、そして堅固な構築美を見事に両立させています。
ライヴならではの強烈な緊張感が全体のモメンタムを高め、聴き手を一気に引き込む圧倒的な説得力を持っています。
CD情報の紹介
1952年9月、10月~ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのライヴ録音。
初の正式リリース。ウォルター・レッグのEMIテープからのリマスター。
Recorded live at the Royal Festival Hall, London, in September & October 1952
First official release. Remastered from Walter Legge’s EMI tapes.
フィルハーモニア管弦楽団 – Philharmonia Orchestra
アルトゥーロ・トスカニーニ – Arturo Toscanini (指揮)
不詳 – Anonymous
01:15イギリス(グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国)国歌 – 女王陛下万歳
1.United Kingdom [God Save the Queen, “God save our gracious Queen …”]
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ヨハネス・ブラームス – Johannes Brahms (1833-1897)
悲劇的序曲 Op. 81
2.(12:54)Tragic Overture, Op. 81
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交響曲第1番 ハ短調 Op. 68
Symphony No. 1 in C Minor, Op. 68
3.(12:33) I. Un poco sostenuto – Allegro
4.(08:44) II. Andante sostenuto
5.(04:15) III. Un poco allegretto e grazioso
6.(17:49) IV. Adagio – Piu andante – Allegro non troppo ma con brio
total(43:21)
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交響曲第2番 ニ長調 Op. 73
Symphony No. 2 in D Major, Op. 73
7.(14:34) I. Allegro non troppo
8.(08:20) II. Adagio non troppo – L’istesso tempo, ma grazioso
9.(05:15) III. Allegretto grazioso (quasi andantino) – Presto ma non assai
10.(08:57) IV. Allegro con spirito
total(37:06)
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ハイドンの主題による変奏曲 Op. 56a
11.(16:48) Variations on a Theme by Haydn, Op. 56a, “St. Anthony Variations”
交響曲第3番 ヘ長調 Op. 90
Symphony No. 3 in F Major, Op. 90
12.(12:49) I. Allegro con brio
13.(08:42) II. Andante
14.(06:33) III. Poco allegretto
15.(09:36) IV. Allegro
total(37:40)
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交響曲第4番 ホ短調 Op. 98
Symphony No. 4 in E Minor, Op. 98
16.(11:16) I. Allegro non troppo
17.(10:38) II. Andante moderato
18.(06:16) III. Allegro giocoso – Poco meno presto
19.(09:59) IV. Allegro energico e passionato – Piu allegro
total(38:09)
ブラームス:交響曲第1番 – 第4番/ハイドンの主題による変奏曲/悲劇的序曲(フィルハーモニア管/トスカニーニ)(1952)
伝説の首席ホルン奏者デニス・ブレインの至芸
この音源がクラシック音楽史において極めて重要なもう一つの大きな理由は、当時フィルハーモニア管弦楽団の黄金期を支えた伝説の首席ホルン奏者、デニス・ブレイン(Dennis Brain)が参加している点にあります。
デニス・ブレイン(1921-1957)とは:
20世紀を代表する圧倒的な天才ホルン奏者。その圧倒的な美音、完璧なテクニック、そして音楽性で数々の作曲家(ヒンデミットやブリテンなど)から曲を献呈されましたが、36歳という若さで自動車事故により急逝しました。
彼が生前に残したオーケストラでの客演ライヴ記録としても、本盤は極めて貴重な価値を帯びています。
ブラームスの交響曲、特に第1番や第3番などにおいて、ホルンが担う役割は非常に重要です。
デニス・ブレインが奏でる黄金色の艶やかな音色と、堂々たるフレーズの息吹が、トスカニーニの峻厳なタクトの下でどのように響き渡っているか――これを確認するだけでも、このCDを聴く価値は十分すぎるほどあります。
オリジナルマスターのEMI原盤復刻による音質向上
このコンサートは当時EMI(レッグ)によってプロ仕様の録音が行われていましたが、トスカニーニが米RCAビクターの専属アーティストであったため、レコード会社間の契約や権利関係の壁に阻まれ、当然ながら当時は正式なレコード化が叶いませんでした。
そのため、マスターテープはウォルター・レッグの個人的な手元に保管されることになりました。
後年になって、愛好家たちの間で作られたプライヴェート盤や非正規の復刻盤が細々と流通していましたが、それらの音源はどれもダビングを重ねたコピーや保存状態の良くないソースが主流であり、歴史的価値は認められつつも音質の面では鑑賞に堪えない部分が多くありました。
しかし今回のリリースでは、ウォルター・レッグが厳重に保管していた正真正銘のオリジナルマスターテープに直接アクセスし、最新のデジタルリマスタリング技術を施すことで、音質が劇的に向上しています。
ホールの残響、弦楽器の細やかなボウイング、そして金管楽器の輝きが鮮明に蘇り、1952年のライヴ空気感がありありと伝わってくる仕上がりとなっています。
まとめ
アルトゥーロ・トスカニーニという20世紀最大の巨匠の最晩年の気迫、創立間もないフィルハーモニア管弦楽団のフレッシュで気高いサウンド、デニス・ブレインをはじめとする名手たちの至芸、そしてウォルター・レッグが守り抜いたオリジナルマスターの奇跡的な出会い。
これらすべての要素が奇跡的なバランスで融合した本盤は、単なるカタログの1枚を超えて、クラシック音楽史の歴史的遺産として長く語り継がれるべき傑作です。
ブラームスの音楽を愛するすべての人、そして巨匠の真の姿を知りたいすべての音楽ファンに、自信を持っておすすめできる必聴のCDと言えます。



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