こんにちは、
ともやんです。
今年没後20年となる朝比奈隆さんは、札幌交響楽団の定期演奏会の指揮台に5回立ったそうです。
それが多いのか少ないのかわかりません。
当然、両方のファンからは、もっと立ってほしかったの思うのではないでしょうか?
そして、現在札響のアーカイブシリーズでは、その内の4回の定期演奏会の録音を聴くことが出来ます。
朝比奈さんが、初めて指揮台に立ったのが、1969年5月19日の第84回定期演奏会でのこと。
朝比奈隆&札幌交響楽団 ワーグナーのマイスタージンガー
CDのT第1曲目に収録されているワーグナーの楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第1幕への前奏曲を聴いているとなぜか涙が出ています。
まさに朝比奈さんの音です。開放的で豪放で堂々として各奏者は、思いのたけに奏でているのが伝わってきます。
朝比奈さんの本を読んでいると、自分でもおっしゃっていますが、職人気質な演奏。つまりやるべきことをちゃんとやる、を徹底されることです。だから各パートは手を手を抜くことをゆるさいない。
インタビューでも「管はちゃんとやるんです。だから弦の連中にしかっり弾かせることを徹底させる。」と言っていたのが印象に残っています。
さて、CDの解説文も読まずに聴いた朝比奈さんと札響の最初のコンサートで演奏されたワーグナーで涙した僕は、CDの解説文を読んで、なんとなく納得しました。
この時期札響は、最初の岐路に立たされていたのです。
何事もそうですが、始めるのは簡単でも続けることは難しいのです。
当時の札響は、創設8年目で創設当初は盛り上がっていたものの、定期会員数も減ってきて、創設者の荒谷氏と事務局で今後の展開で意見の食い違いが出てきていたそうです。
荒谷氏は、創設メンバーを大切にし、コンパクトなオケに相応しい選曲と響きを追求すべきという考えに対し、事務局は、完全プロ化すると同時にメンバーを大幅に増やし、本番の回数も増やすことが急務と考えていました。
この対立の中、荒谷氏は退任し、しばらく山岡重信氏が、札響指揮者という肩書で定期演奏家などを指揮しました。
山岡氏は、当時30代半ばで、早大在学中から早稲田交響楽団を指揮し、卒業後は読売日響のヴィオラ奏者をしていた人です。67年から本格的な指揮活動を始めていました。
そして69年8月にのちに常任指揮者に就任するペーター・シュヴァルツが指揮者になりました。
つまり朝比奈さんが、初めて札響の定期演奏会に指揮台に立った時は、まさに札響にとってまさに岐路に立たされていた時期だったのです。
そんな思いが、この50年以上前の録音から感じられ、胸を打ったのだと思います。
朝比奈隆&札幌交響楽団 ワーグナー、ウェーバー&シューマン
リヒャルト・ワーグナー – Richard Wagner (1813-1883)
楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
1.(09:23) Die Meistersinger von Nurnberg (The Mastersingers of Nuremberg)- Prelude
カール・マリア・フォン・ウェーバー – Carl Maria von Weber (1786-1826)
2.(10:04) Der Freischutz, J. 277: Overture
ロベルト・シューマン – Robert Schumann (1810-1856)
交響曲第3番 変ホ長調 「ライン」 Op. 97
Symphony No. 3 in E-Flat Major, Op. 97, “Rhenish”
3.(09:55) I. Lebhaft
4.(06:10) II. Scherzo: Sehr massig
5.(05:46) III. Nicht schnell
6.(04:56) IV. Feierlich
7.(05:55) V. Lebhaft
total(32:41)
札幌交響楽団 – Sapporo Symphony Orchestra
朝比奈隆 – Takashi Asahina (指揮)
録音:
1969年5月19日 第84回定期演奏会 札幌市民会館
1972年10月17日 第120回定期演奏会 札幌市民会館
シューマン: 交響曲第3番「ライン」; ワーグナー: 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲; ウェーバー: 「魔弾の射手」序曲<タワーレコード限定> 朝比奈隆 札幌交響楽団
朝比奈隆と札響の最初の出会いは1969年でした。
まさに今回発売するトラックの1曲目であるワーグナーが、最初の共演となりました。創立からわずか8年ほどしか経っていない当時の札響は運営的にも岐路に立ち、奏者の完全プロ化は終了していましたが、激動の時代であったようです。
そのようななかで、当時60歳だった朝比奈が客演したこの記録は単なる演奏記録を超えた内容であり、両者の最初の出会いからその後回数こそ少なかったとは言え、重要な音源であることは確かです。
非常に開放的で豪快な鳴りを聴くと、そのような事情を感じさせないばかりか、朝比奈との相性の良さがわかる演奏でしょう。この約3年後に朝比奈は再び定期演奏会に登場し、ウェーバーとシューマンを取り上げました。当時既にペーター・シュヴァルツが就任しており、アンサンブル含め札響のレヴェル・アップに尽力していました。
ここでの朝比奈との共演は、それまでのどちらかと言うと優等生的な演奏とは一線を画した豪胆な表現になっており、違った意味で興味深い演奏となっています。
シューマンでありながらも野性味を感じる演奏はそれほどないでしょう。
朝比奈のキャラクターにも起因するかも知れませんが、楽しさに溢れた、貴重な音源と言えると思います。
尚、朝比奈は生涯に5度だけ、札響の定期演奏会の指揮台に立ちました。
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